夏に焦がれし
大した意味は無い。
夏は過ぎ去っていくにはあまりに強烈だから、脳みそが勝手に起こした妄想だ。
蝉は毎年、夏に殺される。
気づけばあの鬱陶しい鳴き声は強烈な日差しの裏にできる影に吸われて、吸われた残りカスがそこらここらに転がっている。
あの鳴き声の集団を吸い尽くすなんて、恐るべし吸引力、夏。
横を歩くどこかの誰かさんに、夏が蝉を殺すんだと言ったら、蝉は夏にしか生きられないから、蝉を殺しているのは秋だよと反論された。
全く、毛ほども面白くないド正論だ。
これだけ蝉の事を語っていても蝉について調べたことなんかない私は、それでも蝉が1、2週間しか生きられないことくらいは知っている。
それを踏まえれば私も誰かさんも正論とは程遠い妄想を口走ったわけだ。笑える。
そう分かっていてなお私は蝉を殺すのは夏だと言い続ける。
夏は魔物だ。
あれは激しく情熱的に生き物を焦がし恋焦がれさせるから、蝉はきっとそれに抗えないで何もかも夏に吸われていってしまうんだ!!!
ああ、夏よ、なぜ蝉は殺して私を殺してくれないのか。私はこんなに夏に恋焦がれているのに。もうこうなったいっそ目の前の陽炎が踊る交差点にでもつっこんでやろうか。
そんなとんでも妄想が頭をよぎった時、後ろでぼんくら頭の誰かさんが言った。
「君の目は、夏の空だね」
一瞬話が飛びすぎてこのぼんくらクソポエム野郎は何を言ってるのかと変に色々考えたけど、考えれば考えるほどド直球すぎて笑えてきてしまった。
これはこのぼんくらの機嫌が相当悪くなると分かっていても、先輩として言ってやらねばなるまい。
「なんて陳腐な表現なの!」