陳腐な話
「蝉は今年もまた夏から逃げ遅れたんだね」
アイスを齧る、センチメンタル・ロマンチックで安い君の口からそんな言葉が零れ出るでるデル
夏も暮れのはずなのに、未だに太陽はギラリと僕らを睨みつけてくる
太陽よ、そんなにお前はこの僕のアイスクリームが食べてみたいのか
そんなつまらないクソポエム(ヤマトの民に畏れ多くも五七五七七、字余りだ)をぼやっと考えつつ、君の言葉もぼやぼやと考えてみる
考えるまでもなくまあ、いつもの自惚れた君の微塵も自信と自愛を隠せない詩の死骸だろうと思った
ちらっと君の方を見てみる
君の目は、交尾もできずに日照って死んだ蝉のように、遠くの陽炎に絶望を流し込んでいた
どろどろ、デロデロ……
君がこちらに気づく前にその真っ黒から目をそらした臆病者の僕は、何も見てなかった風でからかった
「蝉は夏にしか生きられないんだから、やつらが死んだのは秋のせいだよ」
君はどろどろデロデロの目のままこっちを見た
君がこっちを見たのを僕は周辺視野で見た
ああ、やってしまった
いくら狼狽していてもポエミーな言葉に正論を返すなんて、それこそ僕の方が安い安い口と脳と人間性、これは怒られても仕方がない
と、世界の空気が軽くなった
驚いてうっかり君に目を向けた、が、さっきまでのどろどろデロデロはどこにも見当たらなかった
その代わりいつもの、自信と自愛に満ち溢れた、あまり好きとは言えない君の両目が、静かにそこに居座っていた
ポトリとアイスを落とす
あまりに現実味もなくて、君の頬に触れてみた
(あたたかい)
すっと手を滑らせると、擽ったそうに目を細めた
(やわらかい)
(いつもと同じだ)
(さっきのはきっと、僕の勘違い)
安心した僕は君から手を離し、もったいないと呟いて落としたアイスを睨んだ
もうじきアリの餌になるだろう
いつまでも未練がましく睨んでいたら、口に冷たいのが突っ込まれた
「私のアイスあげるから、そんなに怖い顔してないでよ」
そう言って自信と自愛で彩られた顔をこっちに向けた君は笑顔だ
僕は仕方ないなという顔をして、内心ラッキーと思いつつアイスを食す
今日は今年1番の夏日
じわじわ僕らの皮膚と脳と影を焼き付ける日差しはやはりアイスがほしいのか
少し前を歩いていた君は振り返らずに呟いた
「でもね、蝉はやっぱり夏に押しつぶされて死んでいると思うよ」
振り返らない、君の目は、さっきと同じ目をしているのか
知りたくもなかったやはり臆病者の僕は、空を見上げた
ああ、この青い空の向こうは、恒星の光さえ飲み込む闇が広がっているのか
クソポエムしか生み出せない、才能がなければ努力もしない僕は、ポンコツな脳みそで考えたことを、大して考えもせずに半ば無意識に口にしていた
「君の目は、夏の空だね」
きょとんとした君は一瞬間を置いて、なんて陳腐な表現なの!と爆笑した